魔力


 知合いに熟年夫婦がいた。

 

 奥方はパソコンが世に出てからすぐに使い出した。

ある時、奥方から買替の相談があった。

その時、旦那さんに「一緒に買いませんか?」と提案したが拒絶された。

「近くにポストがあるから手紙を書いてすぐに投函できる」

「世の中の動向は新聞がある」

「調べ物は図書館へ行けば済む」等々、いかにも「おっしゃる通り」の返答。

 

 手元に、一世代前のパソコンがあったので、旦那さんに差し上げた。

「このパソコンは『インターネット』と『メール』だけで、それ以上の機能を期待しないでください」と念を押した。

 

旦那さんは、興味を示さないまま使い出した。

旦那さんの周りには「メールアドレス」を持っている人が多く、「メルアド交換」が始まった。

当初、そのまま手紙にしてもおかしくないメール文体が、周囲から届くメールに感化され、軽いジョーク・絵文字が入り出した。

 

 一年経ち、旦那さんからメールが届いた。

「パソコンが遅い!」「高性能のパソコンを買いたいので相談に乗って欲しい」と・・・

自宅を訪れると「遅い・遅い」の連発。

「だから一年前に『そういうパソコンですヨ』と言いましたよネ」・・・すっかり忘れている。

 

 新品が手元に届くと言動が過激になった。

奥方のパソコンに対して「レベルが低いから買い替えたら」、

自分のマウスに対して「動きが重い、買い替えたい」

守旧派から一気に急進派に変身してしまった。

 

 こんなに変わるとは想像していなかった。

 

 一日がメールチェックから始まる。

「パソコン症候群」になってしまった。周囲からは「パソコン通」に見える。

仕掛人としては「してやったり」である。

 

 今、筆者所有のサーバに旦那さん専用のウェブサイトが構築されている。

面白さが分かってきてドンドン思いが膨らみ「これがやりたい」「あれがやりたい」と質問・要求のメールが筆者宛に届いた。

 

 人を夢中にさせる「魔力」がパソコンにあるという証明である。