3時間


 システムリリースの前日はいつも徹夜だった。

 

コンピュータ室から自席に戻り、本番の様子を見守る。何もしない。

ひたすら「ジ~ッ」としている。

 

 この時、上司は筆者の言動を注意深く見ている。

特に離席した時は「トイレ」なのか「コンピュータ室」かで緊張感が違うらしい。

朝9時から本番。午前中つまり3時間以内にトラブルが発生しなければ「概ねOK」である。

 

「トラブルは3時間以内に発生する」

 

「おかしい報告」は若手社員から届く。なぜかベテランからは来ない。

若手は「おかしい」と思ってやって来ない。

「あの~、ちょっと見てもらえませんか?」とそっとリストを差し出す。

 

それを見た瞬間「ヤバイ」(筆者)

 

心臓が「ドキドキ」しているにもかかわらず「分かりました。ちょっとリストを預かります。後で連絡します」と冷静に応対する。

 

当人の姿が見えなくなったところで、上司に

 

「ヤパイです」(筆者)

「そうか。分かった」(上司)

 

それ以上の会話はない。

「まずったと後悔する気持ち」と「解決できるのは自分しかいないと思う快感」とが交錯する。

 

「ヤパイ」は100%的中していた。「動物的カン」である。

しかし、現在はすっかりポケて、すぐに分かりそうな事も全く見えなくなっている。

現場から離れると途端にその「カン」は劣化する。

トラブル時のベテランの口出しは「騒音公害」の何物でもない。

 

 リカパリーの判断基準に「3時間」という時間をいつも頭の中に入れていた。

誰かに教えられたものではなく、自分自身の経験からである。

 

トラブルが発生してから3時間以内に全てクリアできる手段があるか?

 

少しでも不完全な箇所があれば、解決手段より先行してリカパリー手段を考える。

まず、影響する範囲(お客様・部署)を明確にする。

延焼を最小限にする「江戸の火消し方法」は今でも通じる。

 

心臓外科医によれば、心臓発作が起きてから3時間以内であれば命は助かるという。

 

この「3時間」は色々な世界で「共通な基準時間」に思えてくる。