次の受注


 いつもの定例会議で甲高い声が聞こえてくる。

上司が部下に「檄」を飛ばしている。

「君らは何を考えてやっているんだ!」

「『受注』が全然取れていないではないか!」

「もっともっとやる気を出してガンバらなきゃ!」

「俺が若かった時はこんなもんじゃなかったぞ!」

最後にいつもの「自慢話」。

そして、トドメの一発。

「カビ」が生えそうな?「大昔の手法」を「抽象的」に説明する。

具体例がなく限りなく「精神論」である。

「いいか!仕事はこうやってやるんだ!」

「テンション」が高いのは「本人」だけ。

部下達は、ひたすら「前方下45度」の一点だけを見つめている。

早く終わらないかな…と思いきや

「A君、あの件はどうなっているんだ?」(上司)

「ヤバイ!どうしよう?」(A君)

「あの~お客さんが…あの~…」(A君)

「ダメじゃないか!早め、早めに次を考えて行動しなきゃ!」(上司)

「は、ハイ~」(A君)

儀式化された会議がもう何年も続いている。

夜は夜で飲めば飲むほどに

「自分の前任者がなっていないよ!」

と公然と批判。

一方、トップに対する説明時には

「部下にロクなヤツがいなくて…」

「私も本当に大変なんですから…」

出るのは毎度お馴染みの「愚痴」。

うまくいっていないのは「前任者」「部下」の責任と大声で主張する。

「最悪の環境で頑張っている自分を評価してくれ!」と力説。

 数ヶ月後、いつもの会議でA君が上司に報告している。

めずらしくテンションが高い。

「1年前から工作していた○Z社がここ半年以内に『受注』できそうです」(A君

「予算取りの準備に入りそうです!」(A君)

「開発要員の手配をよろしくお願いします!」(A君)

ところが、反応が今一つ。

いつもの「歯切れのいい口調」はどこへやら

「あのな、想像で物を決めつけてはイケナイよ」(上司)

「まだハッキリと決まっていないんだから」(上司)

「『確定』になったら考えるよ」(上司)

「まだ早いよ!」(上司)

 さらに数ヶ月後、いつもの会議が開かれる。

前よりテンションが高いA君。

気持ちの高ぶりは誰がみても分かる

「○Z社は『受注確定』です」(A君)

「『明日にも契約書と作業スケジュールを持って来い!』と言っています」(A君)

「いつからやれそうですか?」(A君)

「誰がやってくれるのですか?」(A君)

「急に言われても…すぐには人が出ないよ…」(上司)

以前よりさらに「歯切れ」が悪くなる。

「前から『受注できる』と言っていたではないですか!」(A君)

声を荒げ出した。

「『何もしない』とは言っていないぞ!」(上司)

「そう怒るな!」(上司)

         …沈黙…

「あ~、お前がやったらいい」(上司)

「お前が一番よく知っているじゃないか」(上司)

「そういえば、お前は昔『SE』だったじゃないか」(上司)

「お前は今日から『SE』だ!」(上司)

「『発令』を出すから承知しておけ!」(上司)

「はあ~?」(A君)

「しようがない…」(A君/心の叫びi)

 自分が取ってきたのだから「やるっきゃないか!」と腹をくくる。

未経験のスタッフと「プロジェクト」を立上げ、2年後やっとのことで納品にこぎつける。

 納品後、上司に「完了報告」をすると、

「オイ!今期の『売上目標』は達成できるのか?」(上司)

「次の『受注』はどうなっているんだ?」(上司)

「お前『営業』だろうが!」(上司)

 

「はあ~?」(A君)