システム保険


 システムの本番が大きなトラブルもなくスタートした。

そして、システム開発の契約期間が終了する月になった。

次月からは、新たに「システム保守契約」が締結される予定になっていた。

 突然、営業担当者が「困った顔」をしてやって来た。

「お客様の役員がなかなかハンコを押してくれないんです!」(営業担当者)

「それまたどうして?」(筆者)

「当初の提示額からギリギリまで値引きしたにもかかわらず、まだ『高い』というんです」

「担当の部長は納得しているのですが…」(営業担当者)

「『いくらにしろ!』と言うのですか?」(筆者)

「ただ、ひたすら『高い』を連発して『まけろ』と言うんです」(営業担当者)

「システム保守契約」は一年間契約で、チョットした「システム修正」「法律改正による修正・変更」等が含まれている。

年間契約金額を「十二等分」し「毎月定額」を支払う。したがって、何もしない月でも「支払い」が発生する。

大幅な法律改正が発生すれば、お客様は「少額」で修正できる為「お徳用」な契約になる。

現実的には毎月現場から何らかの「修正要望」があり、お客様にとって「損」はしていない。

その都度、システム修正契約をやっていると「少額」にもかかわらず「契約事務手続き」が増え大変な手間がかかる。

 日がさし迫っていることから筆者が役員に直接面会することになった。営業担当者も同伴した。

役員室に通され世間話が終わった頃、話を切り出した。

「システム保守契約の件ですが…」(筆者)

「いよいよ来たな」と役員は背筋を伸ばしてソファを座り直した。

「『タダ』にさせてください」(筆者)

「『高い』とおっしゃるのでご要望を飲みます」(筆者)

平然と話した。

予想もしなかった回答だったらしく役員は「キョトン」としていた。

「無料ですので結果責任は負いません!」

「お客様ご自身で全て確認願います!」

「『システム保守契約』は不要です!」

「よろしいでしょうか?」(筆者)

「エッ~?はあ~?」(営業担当者)

この回答は営業担当者に伝えていなかった。

「チョット待ってください!チョット…」(役員)

日頃の高圧的な態度が消え、今まで見せたことのない表情になった。

「考えさせてください」(役員)

「なぜですか?」(筆者)

「とにかく考えさせてください…」(役員)

 数日後、営業担当者が「ニコニコ」してやって来た。

「値引きなしの当初の提示額でOKだそうです!」

「システム保守契約」はとても厄介な代物で、いまだに金額の妥当性に「自信」がない。

「後付け」「結果論」だからである。

正直なところ「見積」は「システム担当者の体力をどれだけ投入できるか」で計算される。

「まあ~月に?日ぐらいだろう」にチョットだけ利益を乗せる。

「但し、大修正の場合は別途見積もる」の条文を必ず契約書に盛り込み、逃げ道を用意している。

 やる前から「高い」「安い」なんて言えるはずがない。

体力コストの「高い」「安い」は一般単価と比較して議論可能かもしれない。

しかし「責任」「保証」価格となると如何に判断し評価するのだろうか?

この「責任」「保証」価格はどこかへ飛んでいってしまう。

「システム保守契約」には万が一の「保険」が含まれている。

したがって「システム保守契約」というよりも「システム保険契約」という方が妥当である。

となると「システム保険料」の現状は「安い」と言わざるをえない。

この考え方が「お客様」に浸透していない。