ちょっと


 「あの~ちょっと?」

「多くの物語」はこの言葉から始まる。

これを「無視」してもくもくと仕事をし続ける変人もいるが、ほとんどの人はこの声に振り向く。

いままで「ちょっと」で終わった「ためし」がない。

面倒くさいので「分かりません」と即答しようものなら

「冷てえな~!」(質問者)

「簡単でいいんだよ。簡単で…」(質問者)

「これくらい調べてくれたっていいじゃないか!」(質問者)

と悪人呼ばわりされる。

「何をもって簡単なんだよ!」

「簡単だったら他の人に聞けよ!」(筆者/心の叫び)

相手の「大変さ」はどうでもいいのだ。

本当に「チョット」の時は「目的」「依頼事項」を真っ先に言って来る。

そして、回答を求める。

ほとんどの「ちょっと」は「目的」「依頼事項」を相手に言わせる。

「要するに、何が聞きたいのよ?」(筆者)

「こう言う事?」(筆者)

「…はい」(質問者)

「あの~あの~」(質問者)

「ハッキリと物を言わないと分からないじゃないか!」(筆者)

自分の回答内容に責任を持ちたいので「裏付け」を取る。

「知らない」「分からない」はできる限り言いたくないのでまた調べる。

これで半日費やされることは「ザラ」である。

聞いた人はしっかり「賢く」なって帰っていく。

そして「質問に答えるのが当り前だ」という態度。

モシモシ?「ありがとう」の一言ぐらいあってもいいんじゃないの?

感謝の言葉が言える人は問題を整理して持ってくる。

「ちょっと」と似た語句に、

「八島君!今、イ~イ?」

「三分で終るから会議室へ来てよ!」(依頼者)

「机の上を見れば、イ~イかどうか分かるだろうが!」(筆者/心の叫び)

「三分」で終わる「保証」はまったくない。

「三分」にはまったく「意味」がない。

筆者は会議室で何が行われているのかまだ知らされていない。

自分の仕事は「フリーズ」机上のディスプレイは「入力待ち」。

そして、会議中にまたまた「ちょっと」が…

今度は役員秘書から電話が入る。

「ちょっと役員室まで来てください」

一時間近く某案件に対しての「コメント」を求められる。

「分かった。もういいよ」(役員)

この言葉でまた会議室に戻り「大激論!」

いつの間にやら筆者が会議を仕切り出す。

気が付くともう午後十時。

「もう帰ろうよ」(出席者の一人)

この言葉でやっと閉会。

 ようやく自席に戻ると、部屋は自席の上の蛍光灯を除いて真っ暗。

ディスプレイの画面が昼間より鮮明に映っている。

「全員帰りますので後はよろしくお願いします」とメモ書きが…

「今日は何を仕事したのだろう?」と自問自答。

予定は「ムチャクチャ!」

明日の打ち合わせはどうしようかな?

打合せ資料も出来ていないし…

 周囲には「根拠のない発言」が多く存在する。

「トラブル」を起こして困っていると、

「大丈夫だよ!なんとかなるよ!」

「なんとかなる訳がネエだろうが!」(筆者/心の叫び)

「プログラムリスト」をじ~っと見ながら「ロジック」を考えていると、

「簡単だよ!」

「一晩寝るとすぐひらめくよ!」

「それより早く一緒に帰ろうよ!」

「飲みに行こう」と同意語である。

「簡単だったら苦労しないよ!」(筆者/心の叫び)

「難しい案件」を持ってきて、

「君なら出来るよ!」

「冗談じゃない!どんな仕事をしてきたかも知らないくせに!」(筆者/心の叫び)

 疲れきって「椅子の背もたれ」を倒して「ぼお~っ」としていると、会議室に連れ出した人物が帰り支度を終えてやって来た。

 

「八島君!『ちょっと』行かない?」

右手は「グラス」を軽く持つ仕草をしている。