往診


 「ぱそこんドクター診療所」を開設してから数年が過ぎた。

 

 パソコン使用者である「患者さん」が診療所にやってきて、その場で問題を解決する。

しかし、トラブルは自宅でないと解決しないことがある。

「無線ルータ」や「プリンタ」等である。

さらに、緊急を要する時には、「患者さんの自宅」へ直行する。

 

これらを「往診」と呼んでいる。患者の多くはシニア層である。

 

 先日、電車に乗っている時に、女性のFさんから「メール」が入った。

「パソコントラブル」である。

トラブル症状は「ログイン時に「パスワード入力欄」が表示されない」とのこと。

電車で移動中では、電話で詳しい説明ができないので、

「電源オフして、さらに電源オンしてください」とメール返信した。

しかし、「症状は変わらない」と返事が届いた。

結局、Fさんの自宅に行くことになった。

 

 自宅を訪問してパソコンを見ると、

「電源ボタン」を強く押していなかった為に、完全に「シャットダウン」されていなかったのである。

「電源オフ・オン」しただけで、「パスワード入力欄」が表示され、問題は解決した。

作業はたったの1分で終わった。

 

 パソコンは、「リビングテーブル」に置いてあった。

筆者が帰ろうとした時にそのテーブルに両手を付いた。

その時、テーブルがグラついた。

よく見ると、机の脚がしっかりと固定されていないではないか。

 

「どうしたのですか?」(筆者)

「手で脚を締めたのですが…締めきれなくて…」(Fさん)

「道具箱はありますか?」(筆者)

Fさんは、すぐに「道具箱」を持って来た。

テーブルをひっくり返して、道具を使って脚のネジを締めるとしっかりと固定された。

作業は終わったかに見えたが、テーブルの上にはもう一枚の板があり、それがまたズレる。

「どうしたのですか?」(筆者)

「実はこのテーブルは炬燵として使用していたのです」(Fさん)

テーブルの上の板もネジを締めて机に固定した。

テーブルに関する作業時間は約20分。

「これでリビングテーブルは大丈夫です」(筆者}

Fさんはテーブルを両手で押しながら、「グラつかない」ことを確認した。

「ところで、テーブルはいつからグラついていたのですか?)(筆者)

「・・・・・・」(Fさん)

Fさんが座っている後ろには和室があり、仏壇には「ご主人の写真」が…

きっと、テーブルはFさんにとって長年の「懸案事項」であったに違いない。

 

Fさんの顔はニコニコ…。とてもいい顔をしている。

その顔を見て、筆者も「うれしく」なった。

「今日は、いい仕事をしたな~」(筆者}

 

「往診メニュー」に「便利屋」が含まれてしまった。