キャップ
何年か前に自家製のパソコンを組み立てた。
その後、内蔵ディスクの増設を行った。
1番目のディスクは「マスタ」、2番目は「スレーブ」と呼ばれる。
ディスクにはピンがあり、それぞれ異なる場所に「キャップ」を被せることで「マスタ」「スレーブ」を認識させる。
幅が5ミリにも満たない小さなキャップである。
取付作業を始めた時「パ~ッ」と昔の一場面が目の前に浮かんできた。
・・・・・・・
筆者が20代の時、某事務センターのOSの保守を任されていた。
平日のコンピュータは24時間稼動している為、毎日曜日にシステム生成(シスジェン)の作業をしていた。
新OSのリリース作業は丸々一日掛かる。
本番は翌朝8時。
筆者を含めたスタッフは徹夜。
順調に稼動することを確認しなければ眠ることはできない。
事件(事故?)は午前4時に発生した。
できたばかりの新OSパックをマウントさせて、システム立上げのリハーサルを行った。
いつもの作業でありスタッフは気楽にその様子を眺めていた。
その数分後、筆者の心臓が...そして血の気が引いた。
「やばい!」
コンピュータが「ウン」とも「スン」とも反応しなくなった。
原因が分からない。閃かない。
刻々と本番時間が迫ってくる。
定時にコンピュータが稼動しないと大問題になる。
マスコミからのバッシングが待っている。
「どうしよう?...」
今回の作業はディスク増設も同時に行われた為メーカーのカスタマエンジニア(CE)も立ち会っていた。
メーカーの営業もいた。
ディスクを調べていたCEが青ざめた顔をしてやって来た。
「八島さん!ディスクのアドレスが違っています!」
あるディスクが筆者の設定したアドレスと一致していなかったのだ。
ディスクにはそれぞれ「キャップ」があり、「溝」のあり・なしでON/OFFを表し、16進数でアドレスを設定していた。
「キャップ」は「プラスティック製」でディスクと一緒に納品される。
その「キャップ」をディスクにはめ込むことでアドレスが認識される。
実は「ディスクのアドレスは連続していなければならない」という「規則」があった。
筆者のアドレス設定ミスがトラブルの原因である。
時刻は午前7時。
「設定と同じアドレスのキャップがどこかにないのか?」
「どうすりゃイイんだ!」
全員、あせりだした。
メーカーの営業N氏が言い出した。
「キャップを作ろう!」(営業N氏)
「どうやって?」(筆者)
「キャップに溝は彫れないヨ」(筆者)
「撤去されたディスクのキャップがあるから、そのキャップの溝を埋めて作りましょう!」(営業N氏)
「よし、やろう!」(筆者)
「ちょっと待ってください」(CE)
「それじゃ、掟破りです。私はやっていいとは言えません」(CE)
「罰金ものですヨ」(CE)
「じゃ、どうすりゃいいんだヨ」(営業N氏)
「・・・・・・」(CE)
キャップの溝のサイズに合わせて「消しゴム」を切り、それを埋めた。
「カチャ!」
「キャップ」は見事にセットされた。
再度、コンピュータを立ち上げた。
順調にコンピュータは稼動した。
時刻は午前7時50分。
「おはようございます!」
いつも通りに早番のオペレータが入ってきた。
本番開始。
今回の作業は何事もなかった(?)ように完了した。
毎週火曜日はメーカーとの「定例ミーティング」が行われCEの上司も同席する。
その席上でCEの上司がつぶやいた。
「作業結果報告を受け取ったのですが、何かおかしいです」
「この通りだとコンピュータは立ち上がらないハズですが...」(CEの上司)
「・・・・・」
「何で、問題なく稼動しているのだろう?」(CEの上司)
「・・・・・・」
その後「キャップ」は営業N氏が何処からか調達してきて、そ~っと入れ替えた。
上司はこの事故?を知らない。
TEL 090-3203-6565 (八島 治 やしま おさむ)
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