Not


 居酒屋でよく出てくる言葉がある。

「Aさんは非情だ!」

「Aさんは非常識だ!」

発言内容を再確認しておきたい。

彼はこう言っている。

「Aさんには少しも情がない!」

「Aさんには常識というものがない!」

「情け」も「常識」も全くないように聞こえる。

納得いかないので「~でない」の意味の文字を調べてみた。

 「不」「否」「弗」「無」「異」「非」

微妙に違いがあることに気付く。

頭にそれぞれの文字が付く言葉を羅列してみよう。

 

不定・不足・不測・不当・不等・不要・不溶・不用・不二・不可・不毛・不治

不満・不吉・不在・不死・不快・不信・不言・不幸・不孝・不作・不詳・不肖

不利・不屈・不服・不法・不明・不和・不貞・不便・不純・不振・不滅・不倫

不動・不遇・不問・不備・不惑・不意・不義・不徳・不潔

不審

否定・否決・否認

無常・無情・無口・無駄・無力・無人・無想・無双・無心・無用・無礼・無知

無地・無尽・無名・無我・無芸・無視・無私・無効・無実・無念・無法・無味

無為・無限・無茶・無益・無恥・無能・無害・無断・無謀・無欲・無理

無道・無料・無量・無罪・無精・無論・無敵・無難・無類・無籍・無意識

無意味

異常・異状・異人・異端・異才・異母・異存・異形・異説・異彩・異例・異行

異名・異邦・異性・異変・異教・異境・異様・異物・異議

 

非常・非情・非行・非運・非力・非凡・非礼・非道・非業・非公認

 

 ここまで書き出すと、多くの言葉が「自分自身の事」のようで辛い。

どれをとってもいい言葉がない!

 

  不-~でない

  否-「不」+「口」で拒否・否定といった言語行為を表す

  弗-~のようで~でない

    非(hi)の語尾がt に転じて(ht)「ふつ」になった

  無-次に続く「物」「事柄」の存在そのものを否定している

  異-同じではない

  非-~でない

    次に続く「物」「事柄」の存在は認める

    羽が右と左に背いた様

 

ここからは「独善的解釈」である。

冒頭の「非情」は「少し情がある」が「限りなくない」に等しい。

「非常識」も同じである。

 先の居酒屋では

「無情」「無常識」

と言った方がいいのかも…

酔っぱらっていながらも「非」を付けるのは、心のどこかで「敬意」を表しているのだろう。

後に続く言葉が同じものを並べてみると、

 

 「無常/非常/異常」「無用/不用」「無情/非情」「無二/不二」「不定/否定」

 「無道/非道」「無人/非人/異人」「無力/非力」

 

それぞれの意味の違いを明確に説明出来るだろうか?

 

  無常-常がない

     一定せず、いつも変化すること

  非常-普通の人や物事よりすぐれている

     普通とちがった「出来事」「事件」

  異常-普通ではない。変わっていること

     反対は正常

 

今度、居酒屋で「話のネタ」にしてみてはどうだろう?

酔えなくなるかもしれない。

 

  ここで注目したいのが「弗」である。

「~のようで~でない」ということは「肯定」も「否定」もしていないことになる。

 ん~?!ひょっとしたら、そうだ!そうなのだ!

「イ」+「弗」は

「人のようで人でない」人になり「佛(ほとけ)さま」になる。

「シ」+「弗」は

「水のようで水でない」水になり「沸」と書き「水蒸気」になる。

そして、その温度を「沸点」という。

 今「干潟」が再認識されている。

「河川」「道路」も「コンクリート」で固める時代は去り「ブロック」に替わりつつある。

水がしみ込む設計になっている。

そう言えば「障子」の考え方も同じである。

まさしくこれは「弗」の世界である。

「Yes」「No」の世界ではない。

もうひとつ「異」の意味も確認しておきたい。 

「同じではない」ということは「不」「否」「非」「無」等とは明らかに異なる。

英語で言えば「ユニーク」であり「not」ではない。

多くの人は頭の中では理解している

しかし「異」は「不」「否」「非」「無」と同じだと考えている人々が多い。

 どうも「異端」「異才」「異説」「異彩」「異例」「異議」が苦手のようだ。

これを認める「風土」がまだまだ「成熟」していない。

この手の人はまとめて「不良」と称せられる。

「異」を認めることが出来ない人の方こそ「不良」である。

 お客様の話の多くは「非論理的」に語られている。

「非」がついているのだから少しは「論理的」である。

依頼内容のほとんどが「抽象名詞」と「アレ」「ソレ」「コレ」の「指示代名詞」である。

「『アレ』もうチョット何とかなりませんか?」(お客様)

「少し待ってください」(SE)

このやりとりを翻訳すると、

「画面のレイアウトの顧客番号表示の他に顧客名を追加して欲しいのですが?」(お客様)

「今忙しいので一週間待ってください」(SE)

 実際は、こんな簡単な話ではない。

「非論理的」を「論理的」に組み立て直すのが「我々のビジネス」である。

「弗」の世界を「不」「否」「非」「無」を使って論理的に組み立てることが「異」なのだ。

 お客様に「論理的組立」「整理」を委ね、それを鵜呑みにして仕事をすると失敗する。

そして、何度も同じ「過ち」を繰り返す。

 今度のお客様は違う。

今度こそ、うまくいくにちがいないと信じ込み…